高齢化が年々進む中、介護を必要とする高齢者と親を介護する働き盛りの中高年の同居家庭も増えてきています。
兄弟がおらず、働きながら一人で親の介護をしている方にはこんなお悩みを持っている方もいるでしょう。
- 家でも職場でも気が休まらない
- 気持ちがふさぎ込んでいる
- 母の介護もしていて自分の体調まで悪くなる
- 自分以外の誰かに介護を任せられないだろうか
家にいる時は親の介護につきっきり、仕事中も気を張っているために休む時間がないのが、働き盛りのシングル介護では問題になっています。
私の知人にも認知症の父と二人暮らしの方がおり、仕事から帰って疲れていても料理の準備や父の世話をしなければならず、肉体的にも精神的にも追い詰められていた人がいました。
訪問介護を利用しても完全に負担がなくなるわけでもなく、非常に辛い思いをしていたのを見たことがあります。
この知人のように働きながら介護するというのはかなりの負担になるため、どうすればこの悩みを解決できるのでしょうか。
本記事は働きながらシングル介護をする方向けに、シングル介護の現実と負担を介護負担を減らす手助けとなる制度を紹介していきます。
目次
シングル介護の問題
全国的にも増加している
シングル介護とは、離婚や死別を含めた独身者が親を介護することを意味します。
2016年の総務省の調査によると、シングル介護者は全国で1,900万人にも上り、「配偶者のいない子どもと高齢者」の世帯は2割以上にもなります。
シングル介護者の数は年々増加しており、今後もその傾向は続くそうです。
認知症の好発年齢と言われる60~70代の親を持つ子どもは40~50代のことが多く、働く世代にとってシングル介護は肉体的・精神的・経済的にも大きな負担になっているのが現状です。
またシングル介護は恋愛や結婚にも影響を与えており、社会からの孤立にも繋がるとされています。
人間関係の希薄さがさらなる孤立を生むという悪循環を生じさせるのです。
介護離職へ繋がっている
シングル介護で起こりやすいのが介護を理由にした「離職」です。
2020年に行われた労働政策研究・研修機構の報告によると、日本人の介護に費やす平均時間は1日2.5時間とあります。
日々の仕事や家事に加えて、介護にこれだけの時間を割かれているため、介護のために離職するという人も多いのです。
2016年の調査では介護離職者の3割以上がシングル介護者で、経済的に苦しくても介護のために離職せざるを得なかったと答えています。
そして半数以上にあたる55%の人が貯金を切り崩して、介護をしているのだそうです。
私の知人にもシングル介護で離職せざるを得なかった人がおり、貯金を切り崩して生活していました。
最後には介護費用をまかなうこともできなかったため、生活保護の申請をせざるを得なかったそうです。
このようにシングル介護と離職は隣合わせの状態にあり、介護者の離職をいかに防ぎ経済的に安定させるかが重要な課題になっています。
ストレスによる虐待も
シングル介護から離職し、自宅で過ごす家族には多大なストレスもかかります。
シングル介護者が抱えやすい心理は複雑です。たとえば、
- 一人で何もかも抱え込みすぎてしまう
- 相談しようと思うけどどこに相談すればいいかわからない
- 自分が介護しないといけないと思って、ほかの人に頼れない
- 親の介護はしたくないけどせざるを得ない
このように自分ひとりでは難しいことはわかっていても、人には頼りにくいと考えたり、相談しようにもどうすればいいのかわからないという状況に追い込まれているのです。
その結果、ストレスが限界に達して虐待に陥るというケースも珍しくありません。
虐待にも暴力のような身体的なもののほか、言葉による心理的虐待や介護を放棄するネグレクト、経済的な虐待など種類は多岐に渡ります。
そして虐待の原因として挙げられるのが先ほどのような心理状況やストレス、孤立感なのです。
シングル介護はストレスや負担感、孤立感を軽減することが重要なポイントになります。
シングル介護で知っておくべき制度
要介護認定前にしておくこと
働きながらシングル介護を開始する上でまず大事なのは、周囲に自分の状況を知ってもらうことです。
周囲というのは職場、福祉機関、地域のサポートをしている人々のこと。
例を挙げていくと、
- サロンなどで介護の相談をする
- 職場の上司に介護が必要なことを相談する
- 地域包括支援センターや社会福祉協議会、市区町村の介護の窓口に相談する
サロンなどで介護の相談をする
誰かに家庭の事情を話すことには抵抗があるかもしれませんが、先述のとおり一人で抱え込むのではストレスのはけ口がありません。
サロンは社会福祉協議会などで相談すると紹介してくれます。
同じように働きながらシングル介護をしている人同士で、情報交換できることもあります。
必ず相談する必要があるわけではありませんが、同じ介護者であれば介護の辛さを理解してくれるでしょう。
自分の置かれた状況を理解してくれる相手がいるだけでも、介護する側にとって心理的な支えになるはずです。
私の友人が相談を持ちかけてきた時は、同じように介護している人のネットワークを紹介したこともあります。
同じ状況の人と苦しみを分かち合うことで介護への励みになったり、自分の知らない制度への知識を与えてくれる機会になりますよ。
職場の上司に介護が必要なことを相談する
こちらもサラリーマンとして働いている方には重要です。
シングル介護では勤務時間の調整が必要になる場合もあり、職場からの理解を得なければなりません。
勤務時間の短縮や在宅勤務など働き方の変更が可能か相談してみましょう。
介護をするうえで大きいのは金銭的な負担ですから、働きながら介護を続ける選択肢はないか一緒に考えてもらいましょう。
後述しますが、介護休業制度や介護休暇制度なども法整備されてきたので、職場への事情説明は必ず行うべきです。
地域包括支援センター・社会福祉協議会・市区町村の介護窓口に相談する
地域包括支援センターは地域のネットワークを駆使して、介護予防から相談、ケアマネジメントまで行っている機関です。
医療・介護・福祉に幅広く精通しているため、シングル介護で解決の糸口が自分ではわからない時でも解決へと導いてくれますよ。
社会福祉協議会は地域の社会福祉事業に取り組んでいる機関です。
訪問介護や配食サービスなどの在宅事業のほか、高齢者が集まって話をするサロン事業など幅広く事業を行っています。
市区町村の介護の窓口は地域によって名称は変わりますが、介護保険課や保健福祉課などの住民の福祉の窓口になります。
認定が必要な状態ではなくても介護に関する相談は受け付けているので、介護認定前に一度相談してみるのがおすすめです。
要介護認定を申請する
介護サービスを利用し、仕事もこれまでと同じように継続するには要介護認定は必須です。
認定を受ける本人が出来るなら任せられますが、実際にはご家族が行うケースや地域包括支援センターが行うケースが多いでしょう。
要介護認定を受けるにあたっての手順や必要な書類はどのようなものでしょうか。
- 認定調査のため市区町村職員やケアマネージャーが自宅を訪問
- 主治医や市区町村が指定した医師の意見書を作成
- 一次判定及び二次判定
認定調査のため市区町村職員やケアマネージャーが自宅を訪問
申請があった本人の心身状態やADL、家族構成、住環境などを確認します。
訪問調査は家族同席のもとで行うのが基本で、家族には普段の本人の様子も質問されます。
普段の様子を伝え忘れないように、メモをとっておくのがおすすめです。
調査内容は全国共通になっています。
主治医や市区町村が指定した医師の意見書を作成
市区町村が依頼した医師やかかりつけ医に診断してもらい、主治医意見書を作成してもらいます。
要介護認定の更新の際には毎回診断を受けることになるので、病気がなくても年に1回は健康診断などで心身の状態を確認してもらうようにしましょう。
一次判定及び二次判定
一次判定は訪問調査結果と主治医意見書をもとにコンピュータで判定を行います。
二次判定は複数の専門家を交えた介護認定審査会で審査されます。
申請から認定までは1~2か月程度の期間を要するのが一般的です。
要介護認定後にすること
要介護認定を受けたらやるべきことを挙げると
- 在宅サービスを利用する場合は、居宅介護支援事業者(ケアマネージャー)にケアプランの作成を依頼
- 施設サービスを利用する場合は、施設のケアマネージャーにケアプラン作成を依頼
- 完成したケアプランに基づいて、サービスの利用が開始
要介護度に応じて訪問介護や訪問看護、デイサービスなどの利用回数は異なります。
ケアプランができていれば曜日毎に利用できるサービスも決定するため、職場と相談すれば時間の調整もしやすいでしょう。
また要介護認定を受けると要介護度に応じて、様々なサービスと要介護度にあった利用限度額が決定されます。
1か月あたりのサービスへの支給限度額は
要介護度 | 支給限度額 |
要介護1 | 167,650円 |
要介護2 | 197,050円 |
要介護3 | 270,480円 |
要介護4 | 309,380円 |
要介護5 | 362,170円 |
このようになっており、支給限度額は介護サービス以外にもおむつや介護用ベッドなど介護に必要な物の購入にも適用されます。
具体的にどれだけ適用できるかはサービス開始後に、福祉用品店でアドバイスを受けることもできますから必ず相談してください。
介護による経済破綻を防ぐためにも、介護保険を利用することが大事になりますよ。
働きながら使える制度
サラリーマンのシングル介護で問題になるのは、介護離職の問題とそれに伴う貧困です。
介護のために離職という決断をする前に、介護者に利用しやすい制度を活用してみるのも手段の1つです。
介護をしながら仕事を続けるために、どのような制度があるのか紹介します。
- 介護休業制度
- 介護休暇制度
- 勤務時間短縮措置
- 介護休業給付金
- 時間外労働・深夜業務の制限
介護休業制度
会社員が家族を介護するためにまとまった休みを取ることができる制度です。
介護休業をとったことを理由に解雇されることもないので安心してください。
休業は通算で93日までで、3回まで分けて取得ができます。
休業するためには要介護者との関係が、子どもや父母などの血縁関係者である必要がありますが、まとまった休みが取りやすく利用しやすい制度です。
介護休暇制度
介護休業制度と同様に、会社員でも介護のために休みが取れる制度です。
要介護者1人につき、年間で5日間休みを取ることができます。
休暇取得の対象は介護休業制度と同じです。
勤務時間短縮措置
家族に要介護者がいる場合、勤務時間の短縮をしてもらえる措置です。
会社員の場合、勤務時間の短縮やフレックスタイム、出勤・退勤時間の変更などが可能になります。
介護休業給付金
介護休業をとった場合に、基礎賃金に応じた給付金を受け取ることができる制度です。
介護休業開始日以前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月ある人が対象で、休業開始日から1か月毎に算定され、合計で3か月分の支給を受けられます。
支給金額は基本賃金の3分の2に、休業日数をかけた金額になります。
時間外労働・深夜業務の制限
要介護者を持つ職員に、1か月24時間、年間で150時間を超える時間外労働を禁止する措置です。
22時~5時までの労働も禁止になります。
上記5つの制度は、介護者にとって介護と仕事を両立していくうえで、ぜひ活用したい制度です。
給付金制度もあるため経済的な余裕を持った状態で介護をできることも、制度利用の利点になりますので職場で相談してみましょう。
サラリーマンとして働きながらのシングル介護は大変ですが、介護負担は要介護認定と介護サービスを利用して肉体的なストレスを減らしましょう。
サラリーマンが離職すると経済的な保障がないので、給付金や介護休業制度を利用して離職せずに介護することがおすすめです。
まとめ
シングル介護者が増えている現代では、介護で肉体、精神、経済的に追い詰められる人が増えています。
介護者は相談する人もおらず孤立しやすい事情もあるため、いざ介護が始まってから1人に負担が掛からないように色々な制度の利用を検討することが大事です。
特にサラリーマンでシングル介護している場合、仕事と介護の両立は非常に大変です。
一人でできることは限界がありますし、限界を迎えて倒れたり、虐待につながるリスクもあります。
介護認定前から介護相談できる機関や介護保険を最大限活用するサービス、介護と仕事の両立する制度は中高年の介護者が生活を維持する知識として必要なはずです。
大きな負担がかかる仕事とシングル介護の両立ですが、介護者が共倒れしないためにも利用できるサービスは利用しましょう。
シングル介護で苦しむ人が1人でも少なくなることが理想ですからね。