今高齢なご両親と同居している方や、介護をされている方の中には親のわがままに困っている方もいるのではないでしょうか。
若い頃は頼りになり、なんでも教えてくれる親だったのに、年老いてからどんどんわがままになり、子どもに苦労をかけている。そんなご経験のある方もいるでしょう。
なぜ年を重ねると人はわがままになってしまうのか、介護をしている子どもにとっては気になりますよね。
私の知人も高齢の母と同居している方がいるのですが、親だからと思って当初は介護するつもりでした。
ところが年を取るにつれて母は些細なことで怒り出し、何に対しても文句を言うようになってきたのです。
家具の位置が気に食わないと移動させたと思ったら、翌日には元の位置がよかったと自分勝手な文句を言うと話していました。
このようなことが続いた結果、知人は「親の介護もしたくない」と母を置いて別居することにしたのです。
なぜこのように親は自分勝手な振る舞いをするようになってしまったのでしょうか。子どもは親がこのような状態になったとき、どう対処すれば良いのでしょうか。
本記事ではなぜわがままな親になってしまうのかと、親の介護負担を少しでも減らすにはどうすれば良いかを紹介します。
目次
なぜ高齢になるほどわがままになってしまうのか
身体的な衰えが根底にある
高齢になってわがままになる身体的な変化について見ていきます。
高齢になって衰えるのは体力や筋力だけと思っていませんか。それだけではなく色々な部分に不調や衰えの影響が出てくるのです。
内臓の機能低下で下痢や便秘を起こしやすくなり、恒常性機能の低下で環境の変化への適応力や身体の不調に気付きにくくなります。
脳の機能も衰えるため、思考能力・判断能力・感情の制御も難しくなってくるのです。高齢の方の8割以上が何かしらの病気を患っていると厚生労働省から統計が出ています。
つまり高齢者は何かしらの疾患を有しているのが当たり前で、それに加えて日常生活動作(ADL)の低下や脳機能の低下に伴い、自分の思い通りにならないことが増えていきます。
人間の脳の中でも前頭前野の衰えは加齢による影響を受けやすいとされています。前頭前野は思考力や感情のコントロール、コミュニケーション能力などを司っており、人間の重要な能力をコントロールしています。
ここが衰えるために以前よりわがままになってしまうのです。
頼れる人間関係がなくなる
高齢になると人間関係にも大きな変化が訪れます。親子関係では親の親、子どもからみれば祖父母は亡くなっていることが多いです。
友人関係でいえば仲の良い友人も亡くなっていることもあり、頼れる人間が子どもしか残っていない場合があります。
その結果、子どもに自分の抱えている不満も悩みも全てぶつけてくるという理不尽な行動に繋がることもあるのです。
これには親の育ってきた環境や時代ならではの考え方も影響しています。高齢の親が子どもを育てていた時代は、子どもは親の言うことを聞くものとされていましたし、一方通行の話が会話だと思われていたのです。
可能な限り外出を促して、外部に新たな人間関係を構築できるとわがままが減ってくることもありますよ。
親という立場への固執
年老いたとしても、親はいくつになっても親という意識があります。これは簡単に変えられるものではなく、親としての立場が本人にとっては大事なものであることも、子どもからするとわがままに感じる原因です。
先ほども説明したとおり、親にとっては「子どもは親の言うことを聞くもの」という意識が根底にはあります。これは「親である自分は子どもより上の立場である」というプライドがあるからです。
このプライドが崩れてしまうと本人にとって、長年守ってきた立ち位置が失われてしまうため恐怖を感じるのです。
わがままは高齢者がプライドを守るために抵抗しているのだと考えるべきでしょう。この時反発してしまうと余計にこじれやすいので、対応する時は注意しなければなりません。
私の知人には親に反発した結果、大喧嘩になり「離れなければいつか親を殺してしまうかもしれない」という程に思いつめた方もいました。
長年守ってきた立場を崩すことはそれほど親子関係に大きな亀裂を生むこともあるので、時には「仕方ないから自分が引いてやる」という気持ちで対応することが大事です。
わがままな親への接し方
ではわがままで困った時には子どもはどう接すれば良いのでしょうか。
子どもの側でストレスが軽くなるように対応する方法や心構えを紹介します。
- 変なこと、間違ったことを言っても否定しない
- 聞き流しても問題ない部分は聞き流す
- 「高齢者だから仕方ない」という気持ちの余裕を持つ
- 外に興味が向けられるように新しい趣味を提案する
変なこと、間違ったこと言っても否定しない
高齢になるにつれて変化に適応しにくくなるものです。考え方も昔ながらの考え方に固執しがちなので、これを変えることは至難の技です。
親の言ったことを「間違っているから」と否定すると、それは本人にとって自分の考えを否定されていると感じてしまいます。
これを訂正しようとすると、言った言わないの問答にも発展し、自分も親もどんどん感情的になっていきます。
もし間違ったことや変なことを言っていても、「また言ってるよ」くらいに思って受け流す余裕を持ちましょう。
聞き流しても問題ない部分は聞き流す
何度も同じ話をされると「またその話?」と思っていらいらすることもあるでしょう。
いらいらして話を止めてしまうと、親は「子どもは話も聞いてくれない」とストレスになりますし、子どももいらいらしてお互いにストレスを助長してしまうのです。
何度も聞いてきた内容は聞いているフリをして、そこそこに聞き流すことがストレスを溜めずに接するには大事ですよ。
「高齢者だから仕方ない」という気持ちの余裕を持つ
先述の通り、高齢になると変化に適応しにくくなりますし、感情的になりやすい面があります。
「他の家の高齢者は穏やかなのに、うちの親は・・・」と思うこともあるでしょうが、それは表面上そう見えるだけです。
他の家にも自分達にはわからない苦労が必ずあるので、比較するのはやめておいたほうが良いでしょう。比較するほど傷つくのは自分自身ですよ。
「親が昔と比べて変わってしまった」と感じたとしても、「高齢者はみんなそうなんだ」と呆れて見逃す気持ちの余裕を持ちましょう。
外に興味が向けられるように新しい趣味を提案する
最近はコロナ禍の影響もあり、外出を控える人が増えています。厚生労働省の統計によるとコロナ禍で引きこもりの人が増えているという調査結果もあります。
高齢者も外出をしなくなると、気持ちが内向きになり、引きこもりで物事への興味がどんどんなくなってしまうのです。
難しい趣味でなくても構いませんし、昔やっていた習い事でも構わないので外に出る機会を作りましょう。
外へ出て人と会うことで、家の中で家族と話す時とは違った刺激にもなり、元気で明るくなります。
興味を持てそうなサークル活動や高齢者向けの体操教室などを勧めてみると良いでしょう。
一人で親の面倒を見る場合の介護のポイント
介護する子どもには負担が大きい
介護は一人で行うものではなく、家族や専門家まで巻き込んで行うものです。
重い荷物を一人で持ち運ぶといずれ倒れて大怪我をしてしまいますが、人数が増えればそれだけ楽に持ち運べますし、休み時間も出来てきます。
介護も同じで、一人ではなく必ずどこからサポートを得られるか相談しましょう。家族の協力を得られるなら、それぞれどこを担当するか決定しておくことが大事です。
可能な限り早い段階で介護認定を受けることも重要です。認定だけは受けておいて、サービスを利用するかしないかは自由ですから、必要ならケアマネージャーと相談すればよいのです。
自分の介護負担をいかに減らし、親に振り回されないようにするかが大事になります。
「介護は自分じゃなくてもできる」という意識
わがままな親に苦労するのは、介護の負担を負うあなた自身になります。親が自力でなんでもできる状態の時でも、わがままを言われて苦労しているのに、介護が必要になればその苦労は測りしれません。
私の知人は買い物や墓参りなどを母に頼まれて指示されたとおりにやっても、「ここのやり方が違う」「これは欲しいやつじゃなかった」と言われて悩んでいました。
親のわがままに苦しめられるのは嫌だと、買い物代行サービスや出張買い物サービス、墓参りの代行などを頼んだところ母も文句を言わなくなったようです。
家族だからこそ、親はわがままになりますし、子どもはそれに苦しめられるという状況が起こりやすいのです。
面倒を見ていく上で大事なことは、「介護は自分だけでは無理」という気持ちを持って、「施設や専門家に任せてしまおう」という意識を持つことです。
親本人は反対するでしょうが、親の介護のために生活スタイルを大きく崩して、仕事もできず収入もない生活になると説明されたらどうでしょうか。
介護サービスを受ければ、その間に他の仕事や家事に回せる時間が増えるとすれば、そのほうが良いですよね。
また物理的に親と距離を取る時間を持つことは効果的です。家で一緒に過ごし、親はわがままを言い、自分はそれに応えるという状況が長く続くと共依存という状態になる可能性もあります。
共依存とはお互いに特定の関係に依存し、囚われてしまい、その状態から抜け出せなくなることです。
共依存状態にあると他者からの干渉を受け入れられず、奴隷関係のようになってしまう恐れがあります。
親の面倒を見るときは「介護は自分じゃなくてもできる」とそこそこに頑張る意識を持つことが大事です。
介護サービスで負担を減らすには
相談ができる窓口を知る
「いきなり介護の相談は難しい」と思う方もいるでしょう。その場合はそれぞれの市区町村に設置されている福祉の窓口に相談してみることをおすすめします。
介護相談ではなくても、「親がこんなこと言って困るんです」とか「親がわがままばかり言って悩んでいる」など接する上での悩みを相談してみるのも良いですよ。
専門家に相談すれば、ご家庭の状況に合わせてアドバイスをしてくれるはずなので、困ったら窓口で相談してみましょう。
もし介護が必要になった時も普段から相談しておけば、介護サービスを受けたい時にどう動けばよいか想像しやすいですし、状況を知っている支援者からアドバイスももらえます。
相談窓口があるかないかで親の面倒を見る負担が減るので、具体的に紹介しますのでぜひ知っておきましょう。
- 地域包括支援センター
- 社会福祉協議会
- 市区町村の介護保険窓口
- 民生委員
- 病院の主治医やソーシャルワーカー
地域包括支援センター
地域包括支援センターは市区町村に必ず設置されている高齢者に関する相談窓口です。
相談内容は介護に限らず、医療・保健・福祉など様々な面で受け付けています。
専門家が常駐しており、保健師・社会福祉士・ケアマネージャーなどそれぞれのスペシャリストがいるので、相談窓口として頼りになるでしょう。
公費で運営されているため、相談は無料で行えます。介護の悩みがある時は心強い味方になるはずです。
社会福祉協議会
地域包括支援センターと同様、市区町村に設置されていますが、こちらは民間組織です。民間組織ですが営利を目的としていないため報酬は発生しません。
地域包括支援センターと連携を取るため、隣接している場合もあります。
相談範囲は高齢者に限らず、身体・精神障害のある方や児童福祉分野など医療・保健・教育など幅広く対応しています。
医療機関や地域の民生委員、福祉施設などとの連携・協力を行っているため、社会福祉協議会に連絡して必要なサービスも相談可能です。
介護保険制度についてや利用できる介護サービスの相談、高齢者の金銭管理なども対応してくれる組織になります。
市区町村の介護保険窓口
地域により名称は変わりますが、介護保険を担当する窓口です。
直接介護に関わるわけではありませんが、要介護認定の相談や介護保険制度についての相談を受け付けています。
「そろそろ親も要介護認定してもらったほうがいいかな」と感じたら、こちらに相談してみましょう。
民生委員
地域に住みながら、ボランティアで高齢者の様子確認や相談に乗るといった活動をしています。
国からの認定を受けてはいますが、専門性を持ったスタッフではなく、あくまでボランティアなので介護に携わることはありません。
病院の主治医やソーシャルワーカー
高齢になると身体の不調を訴える方も増えてくるため、多くの方には主治医がいるでしょう。
介護サービスを受けるには主治医からの診断書や意見書が必要になりますから、体調や介護を導入したほうがよいかの相談などを行ってみましょう。
普段からかかりつけの医師を決めておくと、いざという時スムーズに動けますよ。
また、病院には地域医療と連携する部署が設置されており、ソーシャルワーカーもいます。
福祉分野の連携と法律に詳しいソーシャルワーカーに、医療・介護・経済面などの相談すると問題解決に近づけるでしょう。
まとめ
介護は普通に行うだけでも苦労しますが、親のわがままがあるとますます苦労は増えるばかりです。
先述したように相談できる窓口を持っておくことで、精神的にも楽になり、いざ介護サービスを利用しようとした時にも相談窓口の力を借りてスムーズに進めることが出来るはずです。
私の知人も親の介護に苦労している方がいました。その方は親の介護という苦労を一人で背負い、ずっと苦しんでいました。
しかし、親の入院をきっかけにして、地域からのサポート体制が充実し、相談窓口ができ、介護サービスも利用出来るようになったのです。
その結果、親の介護負担は大幅に減ったそうで、肉体的にも精神的にも余裕が出来ました。
親の介護やわがままな言い分に苦労している方は、相談窓口で相談して介護のプロにおまかせしてみることも幸せな介護への手段ですよ。